新作「ヤッホー」本日1月23日発売。ライナーノーツ by 安田謙一(ロック漫筆)

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「知恵のソング」

_坂本慎太郎のアルバム『ヤッホー』は、“おじいさん”と歌い出される。誰の耳にもはっきりと聞こえる明瞭な発音で、“おじいさん”と歌われる。この一瞬で、ああ、坂本さんもここまで来たかと、深く感じ入った。おおよそポップ・ソングの歌い出しにふさわしくはない“おじいさん”という言葉がキラキラとポップに輝いている。なにより、しっかり、ソングのフォルムに定着させている。
_ここ一週間ほど、繰り返し『ヤッホー』をあらゆる場所で聴いている。ファミレスで、ドリンクバーから戻ったとき、テーブルの上のプリントアウトされた“おじいさんへ”という文字を見て、人が見たら、孫からの手紙だと早合点されそうだなと笑った。さて、私はこの歌のどちら側に立っているのだろう。
_「麻痺」の“感じねば”は、日々、目に入る、あれこれをやり過ごすべく、心を薄くしたままになっている自分に警告を与えてくれる。「あなたの場所はありますか?」で左右にパニングされるタンバリンは、スロー再生された蛾の羽ばたきのように頭の廻りを飛び回る。脳をまもらなければ、と身構える。
_「なぜわざわざ」はロバート・ヘンライの著作『アート・スピリット』の極めて現実的なヴァージョンである。“その気になればどこへでも行けるのに”は永遠の命題である。
_「ゴーストタウン」は幽霊の気分で街を彷徨い歩く私を、あちら側から見た風景だ。「時の向こうで」にもまた死を意味する言葉が現れるが、そのうえでの、“残された者たちで知恵を出す”のラインが胸を打つ。
_「ヤッホー」はRCサクセション「わかってもらえるさ」と同じことを歌っている。この歌詞は世界各国の言語に翻訳されるべきだと思う。同時に、日本語のままでも、そういう歌だと耳から伝わる気もする。では、「おじいさんへ」はどうだろうと考えると愉しい。
_ここまで、やたら歌詞ばかりに触れてきたが、これが歌であることに、ただただ痺れるのである。そして、その歌がバンドによって演奏されていることが、とても重要だ。
_「時の向こうで」の中盤に出てくる“うー”というコーラスはまるで漫画のコマの中のオノマトペのようだ。水木しげるが“ぺったらぺたらこ”と表現した、あれ。バンドがこの歌をやっているのだ、と漫画のように誇張している。ここまで来たか、は坂本慎太郎とバンドへの賛辞でもある。長く使いこまれた道具のように、美しく機能している。

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安田謙一(ロック漫筆)